みなし残業(固定残業)制度とは?企業側のメリットと注意点を解説!
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公開日:2025年4月
更新日:2025年4月26日
求人票や労働契約書でよく目にする「みなし残業」や「固定残業」という言葉。なんとなく残業代が最初から給与に含まれている、というイメージはあるものの、具体的な仕組みや他の制度との違いについては曖昧なままになっていませんか?
本記事では、みなし残業(固定残業)制度の基本的な仕組みから、企業が導入するメリット・デメリット、注意点までをわかりやすく解説します。これから制度の導入を検討している企業の方や、仕組みを正しく理解したい人事担当者にとって、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
目次
みなし残業(固定残業)とは

みなし残業(固定残業)とは、企業が従業員に支払う給与のうち、あらかじめ一定時間分の残業代(時間外労働分)を含めて支給する制度のことです。みなし残業制度は、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間分の残業代を固定して支払うため、「固定残業制度」とも呼ばれています。
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通常であれば、従業員が法定労働時間を超えて業務を行った場合、企業は基本給とは別に残業代を支払う義務があります。しかし、みなし残業(固定残業)制度を導入している場合は、給与の中にあらかじめ設定された一定時間分の残業代が含まれているため、その範囲内であれば追加の残業代支給は不要になります。
ただし、みなし残業(固定残業)で定めた時間を超えて残業が発生した場合には、別途超過分の残業代を支払う必要があります。
いわゆる「残業代」として支払われる割増賃金には、以下のような種類があります。みなし残業(固定残業)制度においても、これらの割増率を考慮した設計が求められます。
■割増賃金がつく労働の種類と法定割増率
労働の種類 | 法律で定められている最低割増率 |
---|---|
法定労働時間を超える労働 | 25%以上 |
深夜労働(22~5時の労働) | 25%以上 |
1ヵ月60時間超の労働 | 50%以上(※1) |
法定休日以外の休日労働(所定休日労働) | なし(※2) |
法定休日労働 | 35%以上 |
出典:e-GOV「労働基準法」
※1 2023年3月までは中小企業に限り25%。2023年4月以降は企業規模を問わず適用。
※2 1週間の労働時間が40時間を超える場合は25%。
なお、みなし残業(固定残業)制度において、どの種類の残業代(割増賃金)が含まれるかは、企業ごとの労働契約や就業規則で異なります。

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そのため、みなし残業(固定残業)の時間数や対象範囲を明確にし、従業員に正確に説明することが重要です。
みなさい残業(固定残業)とみなし労働時間制との違い

みなし残業(固定残業)と混同されがちな制度として、「みなし労働時間制」があります。
みなし残業制度(固定残業制度)とみなし労働時間制の違いに関するポイント

みなし残業制度(固定残業制度)は、あらかじめ定めた時間分の残業代を給与に含める制度であるのに対し、みなし労働時間制は、従業員の実際の労働時間にかかわらず、一定の時間働いたものと「みなして」給与を支払う仕組みです。
このみなし労働時間制は、特定の業務や職種など、限られたケースにしか適用されません。そのため、企業が広く活用しているのは、主にみなし残業(固定残業)制度のほうになります。一般的なオフィスワークや営業職などで導入されるのは、こうした固定残業制度であることがほとんどです。

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みなし残業(固定残業)制度についてさらに詳しく知りたい人はこちらの記事もご参照ください。
みなし労働時間制には、以下の3つの種類があります。それぞれ、みなし残業(固定残業)制度とは異なる目的や運用条件が定められています。
事業場外労働のみなし労働時間制
この制度は、労働者が外出して仕事を行うため、実際の労働時間の把握が難しい場合に適用されます。労働基準法第38条の2に基づき、外回りの営業職などが該当しますが、みなし残業(固定残業)制度とは別枠の制度です。
専門業務型裁量労働制
デザイナーや建築士、記者など、業務の進め方を労働者の裁量にゆだねる必要がある専門職に適用される制度です。労働基準法第38条の3で定められており、こちらもみなし残業(固定残業)制度とは区別されます。

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固定残業制度のように時間をベースに給与計算するのではなく、仕事の性質を重視します。
企画業務型裁量労働制
企業の本社などで行われる企画や調査、分析業務に従事する従業員に対して適用される制度です。裁量労働制の一種で、あくまで労働時間の計測が困難な業務に対して使われるものであり、みなし残業(固定残業)のようにあらかじめ時間と残業代を固定する制度とは異なります。
みなし残業(固定残業)制度に関するおすすめ記事:「みなし残業代」と「固定残業代」の違いってご存じですか? それぞれのメリット・デメリットを紹介
このように、みなし残業(固定残業)制度と、みなし労働時間制は似て非なる制度です。
みなし残業代と固定残業代に関するポイント!

自社でどの制度を導入すべきかを検討する際には、それぞれの違いや適用条件をしっかり理解することが重要です。
みなし残業(固定残業)を導入するメリット

それでは、企業がみなし残業(固定残業)制度を導入するメリットにはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
みなし残業(固定残業)を導入するメリット①:人件費の管理がしやすくなる
みなし残業代(固定残業代)を導入することで、毎月の残業時間にかかわらず人件費を一定に保つことができ、経営上の予算管理が非常にしやすくなります。残業時間の変動に左右されないため、安定した人件費の予測とコントロールが可能となり、経営の安定にもつながります。

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たとえば、営業職のように残業時間が月によって大きく変動する職種では、みなし残業代を導入することで、人件費の予算超過リスクを軽減できます。
導入前 | 導入後 |
---|---|
残業時間に応じて人件費が変動 | 固定残業代により人件費が一定 |
予算管理が複雑 | 予算管理が容易 |
予想外の人件費増加のリスク | みなし残業代によって予測・コントロール可能 |
また、みなし残業代の導入によって、残業時間の集計や残業代の個別計算といった業務も簡素化されるため、人事・労務担当者の業務負担が軽減されます。企業規模の拡大時にも、固定残業制を活用すれば、従業員数の増加に伴う人件費の変動を抑えられ、効率的な管理が可能です。
みなし残業(固定残業)を導入するメリット②:従業員の給与が安定する
みなし残業代(固定残業代)を毎月一定額支給することで、従業員の給与が安定し、生活設計を立てやすくなります。特に残業が少ない月でも、一定額の残業代が支払われる点は、従業員にとって大きなメリットです。
メリット | 説明 |
---|---|
収入の予測可能性向上 | 固定残業代により毎月の収入が一定 |
生活設計の安定化 | 収入変動が少なく、計画が立てやすい |
モチベーションの維持 | 労働時間に関係なく一定の収入が得られる |
とくに以下のような従業員にとって、みなし残業制度は有効です。
- 毎月の生活費が固定で、収入の安定を重視する人
- 住宅ローンや教育ローンの支払いがある人
- 副業や兼業をしており、本業の給与の予測性を重視する人
このように、みなし残業代制度は生活の安定に寄与しますが、後述する注意点に従って適切に設計・運用される必要があります。
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みなし残業(固定残業)を導入するメリット③:労務管理の効率化につながる
みなし残業(固定残業)制度を導入することで、労務管理の簡素化・効率化が期待できます。
項目 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
残業時間の把握 | 毎日記録が必要 | みなし残業時間内なら簡略化可能 |
残業代の計算 | 毎回個別に計算 | 固定残業代で自動化 |
給与計算 | 変動対応が必要 | 毎月一定の固定残業代を加算 |
労務トラブル | 計算・記録ミスのリスク | 固定残業時間内ならリスク軽減 |
たとえば、毎日の残業時間を従業員ごとに集計し、時間外労働の計算を行う作業は非常に手間がかかります。みなし残業代を設定しておけば、あらかじめ定めた時間分の残業代を給与に含めて支給できるため、業務の効率化につながります。
みなし残業(固定残業)に関する気をつけておきたい注意点

ただし、固定残業時間を超えた労働に対しては、別途残業代を支払う必要があるため、過剰労働が発生した場合の対応には注意が必要です。
みなし残業(固定残業)を導入するメリット④:求人時にアピールできる
みなし残業代(固定残業代)制度は、求人活動においても魅力的なポイントになります。特に残業が多めの職種では、みなし残業代が高く設定されることで、求職者にとって高収入のイメージを持たせることが可能です。
メリット | 説明 |
---|---|
給与の安定性 | 残業時間にかかわらず一定の収入がある |
ワークライフバランス | 残業時間の明示によって生活の見通しが立つ |
キャリアアップ | 固定残業代の増加により、成長が収入に反映されやすい |
求人票には、「固定残業代として月◯円、◯時間分を含む」「超過分は別途支給」と明記することが重要です。たとえば、
月給30万円(固定残業代5万円/30時間分を含む)
といった記載をし、「固定残業時間を超えた場合は、別途割増賃金を支給します」と明示すれば、透明性を保ちつつ応募者の不安を軽減できます。
みなし残業(固定残業)に関する気をつけておきたい注意点

一方で、実際の残業時間とみなし残業時間がかけ離れていたり、固定残業代が極端に低く設定されている場合、応募者に不信感を与えるため、設定には十分な配慮が求められます。
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット

企業が固定残業代制(みなし残業代制)を導入する際には、以下のポイントを押さえておくことが重要です。適切な導入と運用を行うことで、労務トラブルを防止し、従業員との信頼関係を構築できます。
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット①:みなし残業導入時は従業員の同意が必要
固定残業制度(みなし残業制度)を導入する際、まず必要なのは従業員の明確な同意です。みなし残業代は給与体系の中でも特に重要な要素であり、その内容を理解・納得してもらうことが不可欠です。
口頭での説明だけでなく、固定残業代の時間数や金額、超過残業に対する支払いルールを明記した書面を交付し、合意を得ることが望ましいです。合意を得ないまま制度を導入すると、後々法的なトラブルにつながる可能性があります。
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット②:就業規則に固定残業の内容を明記する
みなし残業制度を適正に運用するためには、就業規則に制度の詳細を明記する必要があります。

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特に「基本給」と「固定残業代」の区別を明確にし、みなし残業時間が何時間分で、どのように支払われるかを具体的に記載しましょう。
また、固定残業時間を超えた場合には追加で残業代を支払うことを規定し、従業員にも周知しておくことが大切です。この明確なルールがあることで、労務トラブルの予防につながります。
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット③:求人情報には固定残業に関する詳細を記載
みなし残業代制度を採用する場合、求人情報にも以下のような固定残業に関する情報を正確に記載する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給
- 固定残業代に該当する時間数と金額、およびその計算方法
- 固定残業時間を超える場合には、追加の割増賃金を支給する旨

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みなし残業(固定残業)制度についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
これらを明記せずに求人を出すと、後に「聞いていた条件と違う」といった従業員とのトラブルにつながる恐れがあります。過去には裁判で企業側に未払い残業代の支払いを命じられた例もあり、透明性のある記載が不可欠です。
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット④:就業規則の変更時は労働基準監督署へ届出を
みなし残業代制度の導入に伴って就業規則を変更する場合、労働基準法に基づき、変更内容を労働基準監督署に届け出る必要があります。
届出には、従業員の過半数代表者の意見書を添付する必要があります。特に届け出の期限は明示されていないものの、「遅滞なく」提出することが求められており、就業規則の変更後は速やかな手続きを行うべきです。
みなし残業(固定残業)制度に関するおすすめ記事:みなし労働時間制とみなし残業の違いをわかりやすく解説!固定残業との違いも!
みなし残業(固定残業)を導入するデメリット⑤:固定残業制度は定期的な見直しが重要
みなし残業・固定残業制度を一度導入しても、その後の実情に合っているかを定期的に確認・見直すことが重要です。
実際の残業時間が固定残業時間を大きく上回っている場合や、制度設計が従業員に不利益となっている場合には、速やかに見直しを行うべきです。また、労働基準法や関連ガイドラインの変更にも柔軟に対応することが求められます。
固定残業代制度が形骸化していたり、法令違反状態に陥っていたりすれば、企業の信用にも関わる問題となります。常に適正な運用を心がけましょう。
みなし残業(固定残業)を導入する際の注意点

続いて、みなし残業代(固定残業代)制度を導入する際のデメリットについても確認しておきましょう。
みなし残業(固定残業)を導入する際の注意点①:従業員のモチベーション低下
みなし残業代制度では、実際の残業の有無に関わらず、あらかじめ設定された固定残業代が支払われます。これは、残業が少ない従業員にとってはメリットになる一方で、多くの残業をしている従業員にとっては、実働時間と賃金が見合わないと感じることがあり、モチベーションの低下を招くおそれがあります。
メリットになりやすい人 | デメリットになりやすい人 |
---|---|
残業が少ない人 | 残業が多い人 |
定時で退社することが多い人 | 遅くまで働くことが多い人 |
特に注意が必要なケースには以下のようなものがあります。
- 実際の残業時間が固定残業時間を大幅に超えている状態が常態化している
- 支払われている固定残業代が、実労働時間に対して不十分
- 同じ職場内で、業務量や責任の差が大きく、みなし残業制度が不公平に感じられる
このような状況では、「残業をしても報われない」という意識が従業員に芽生え、不満が蓄積し、結果的に離職率の上昇や生産性の低下といった影響が懸念されます。
みなし残業(固定残業)制度に関するおすすめ記事
従業員の納得感を得るためには、みなし残業代の仕組みや内訳を丁寧に説明し、定期的なヒアリングや固定残業代の見直しを行うことが重要です。
みなし残業(固定残業)を導入する際の注意点③:賃金計算が複雑になる
みなし残業代制度を導入すると、給与計算のプロセスが従来よりも複雑になります。固定残業代と基本給を明確に区分して管理する必要があるため、通常の残業代計算よりも煩雑になるケースが多く見られます。
賃金項目 | 通常の残業代計算 | みなし残業代計算 |
---|---|---|
基本給 | ○ | ○ |
残業代 | 実績に応じて都度計算 | 固定残業代として事前に支給 |
みなし残業代 | – | ○ |
深夜残業代 | 実績に応じて計算 | 固定残業代に含まれない分は別途支給 |
休日労働の割増賃金 | 実績に応じて計算 | 同上 |

SoVa税理士お探しガイド編集部
このように、みなし残業制度を採用する場合、深夜労働や休日出勤など固定残業代に含まれない残業時間分の給与を個別に計算する必要があります。また、役職手当などの他の手当との関係も慎重に調整する必要があり、設定を誤ると違法な給与体系と見なされる恐れもあります。
さらに、退職時には「支給済の固定残業代に含まれる残業時間」と「実際に働いた残業時間」との差額調整が必要になることもあり、計算ミスが発生しやすいポイントにもなっています。給与システムの変更や導入コストが発生する可能性も考慮しなければなりません。
みなし残業(固定残業)を導入する際の注意点④:トラブルが発生するリスクがある
みなし残業制度(固定残業代制度)の導入により、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。以下は、よくあるトラブルの例です。
トラブルの内容 | 説明 |
---|---|
固定残業代が実残業に見合っていない | 実際の残業時間と固定残業時間が合っていないケース。 固定残業時間を超える残業が常態化していると、未払い残業代が発生し、法的リスクが高まります。 |
固定残業代と基本給が不明確 | 固定残業代が基本給に含まれているような表記・運用をしていると、違法と判断されることがあります。 |
労使協定の不備 | 固定残業制度に関する労使協定が曖昧または法律に違反していると、制度自体が無効とされる可能性があります。 |
従業員のモチベーション低下 | 「残業しても報われない」という不満が生じやすく、みなし残業代制度の使い方によっては逆効果になることもあります。 |
このようなリスクを回避するためには、みなし残業代制度に関する法律やガイドラインを正しく理解し、適切に運用することが求められます。具体的には、
- 労使協定の明文化と法的整合性の確認
- 適正な固定残業時間・金額の設定
- 従業員への制度内容の丁寧な説明
といった対策が重要です。
みなし残業(固定残業)制度に関するおすすめ記事:みなし残業代(固定残業代)とは?定義や計算方法、注意点まとめ
まとめ

みなし残業(固定残業)制度は、従業員の給与体系をシンプルにし、労務管理の効率化を図れる一方で、運用を誤るとトラブルの原因にもなりかねません。
企業にとってはメリットも大きい制度ですが、法的な基準や就業規則の整備、従業員への丁寧な説明が欠かせません。
みなし残業(固定残業)制度に関するおすすめ記事
みなし残業(固定残業)を適切に活用することで、企業と従業員双方にとって納得感のある働き方を実現できるはずです。

SoVa税理士ガイド編集部
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