固定残業代とは?労働者と企業それぞれのメリットデメリットや注意点も解説!
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公開日:2025年4月
更新日:2025年5月1日
働き方改革が進む中で、企業の給与制度として定着しつつある「固定残業代」。一定の残業時間をあらかじめ給与に含めることで、企業にとっては人件費の見通しが立ちやすく、労働者にとっても収入が安定するなど、双方にメリットがある制度です。
一方で、制度の運用方法によってはトラブルにつながるケースもあるため、メリット・デメリットの両面を正しく理解することが重要です。
この記事では、固定残業代の基本的な仕組みから、企業・労働者それぞれのメリット・デメリット、導入時の注意点まで、わかりやすく解説します。
制度の導入を検討中の企業担当者や、就職・転職活動中の方は必見です。
目次
固定残業代とは

固定残業代とは、あらかじめ決められた金額の残業代を、毎月の給与に固定で含めて支払う制度のことです。「みなし残業」とも呼ばれ、実際に発生する残業の有無にかかわらず、一定時間分の残業代が支給されるのが特徴です。企業と労働者との間で労働契約を締結する際、固定残業代を給与に含めることを明記する必要があります。
この制度のメリットとして、企業側は人件費の見通しを立てやすく、給与体系がシンプルになります。一方、労働者にとっても、残業が発生しなかった月でも一定の残業代が支払われるため、収入が安定しやすいというメリットがあります。
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固定残業代の導入には書面での明示が必須
固定残業代を導入する際には、就業規則や雇用契約書などに、固定残業代の対象時間や金額、超過分の取り扱いを明確に記載する必要があります。これにより、労使間のトラブルを未然に防ぐメリットがあります。従業員に対して十分に制度内容を説明し、周知徹底することが企業側の義務です。

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みなし残業(固定残業)制度とは?企業側のメリットと注意点を解説!
本記事では、みなし残業(固定残業)制度の基本的な仕組みから、企業が導入するメリット・デメリット、注意点までをわかりやすく解説します。これから制度の導入を検討している企業の方や、仕組みを正しく理解したい人事担当者にとって、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
固定残業時間の上限
固定残業代制度には、固定残業時間の明確な上限は法律上設けられていません。しかし、実際に時間外労働を行わせる場合には、「36協定」に基づく制限が適用されます。36協定では、時間外労働の上限が1ヶ月あたり45時間、年間で360時間と定められています。
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そのため、固定残業代に含める時間は、これらの上限を超えないよう、1ヶ月45時間以内に設定することが一般的であり、安全な運用のメリットがあります。
固定残業代とみなし労働時間制の違い
「固定残業代(みなし残業代)」と「みなし労働時間制」は、名称が似ているため混同されやすいですが、制度の性質は異なります。
比較項目 | 固定残業代(みなし残業代) | みなし労働時間制 |
---|---|---|
概要 | 毎月一定額の残業代を支給(実労働時間に応じて超過分支給) | 所定時間働いたとみなす制度(実労働時間を問わない) |
対象 | 残業代 | 労働時間 |
メリット | 収入の安定、給与計算の簡素化、採用時の給与提示がしやすい | 裁量性の高い働き方が可能、成果重視の職種に適する |
残業代の支払い | 固定時間分は支給、超過分は別途支給 | 支給されない(例外あり) |

SoVa税理士ガイド編集部
固定残業代制度には、制度設計次第で企業と従業員双方にとって多くのメリットがある一方、不適切な運用をすれば法的リスクにつながる可能性もあります。正しい理解と適切な導入が求められます。
企業側が固定残業代を採用するメリット

企業が固定残業代を導入することで得られるメリットについて、より具体的に解説します。
企業側が固定残業代を採用するメリット①:給与計算がシンプルになる
固定残業代制度を導入すると、あらかじめ一定時間分の残業代が給与に含まれるため、毎月の残業時間を個別に計算する必要がなくなります。たとえば、月10時間分の固定残業代が含まれている場合、実際の残業が2時間でも8時間でも、支給額は変わりません。このように固定残業代は、給与計算業務を効率化する大きなメリットがあります。
企業側が固定残業代を採用するメリット②:人件費の試算がしやすくなる
企業にとって人件費の予測は非常に重要です。固定残業代の導入によって残業代が一定となり、給与額が月によって大きく変動しにくくなります。これにより、人件費の見通しが立てやすくなり、予算管理や資金計画がスムーズになるメリットがあります。

SoVa税理士ガイド編集部
固定残業代のメリットについてさらに詳しく知りたい人はこちらの記事もご参照ください。
企業側が固定残業代を採用するメリット③:無駄な残業を抑制する
固定残業代は、従業員にとって「残業しなくても一定の残業代がもらえる」という前提であるため、収入を増やす目的だけの不要な残業を防ぐメリットがあります。これにより、従業員は短時間で成果を出そうとする意識が高まり、会社全体の生産性向上につながります。
企業側が固定残業代を採用するメリット④:生産性の高い従業員が明確になる
時間に対する報酬ではなく、成果に対する評価が重視されるのが固定残業代の特徴です。従業員の成果がより浮き彫りになり、企業側は生産性の高い人材を把握しやすくなります。これは、戦略的な人材活用を可能にする大きなメリットです。
企業側が固定残業代を採用するメリット⑤:従業員の生活が安定する
毎月の給与額が一定水準で維持されるという点も、固定残業代の重要なメリットです。従業員にとっては、残業時間によって収入が上下するリスクが軽減され、生活設計がしやすくなります。

SoVa税理士お探しガイド編集部
特に残業が少ない月でも一定の固定残業代が支払われることで、収入が安定するという安心感が得られます。
このように、固定残業代の導入には給与計算やコスト管理、生産性向上、従業員の生活安定といった複数のメリットがあります。一方で、導入にあたっては制度の適切な運用と法令遵守が不可欠です。
企業側が固定残業代を採用するデメリット

固定残業代には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。本記事では、企業が固定残業代を導入する際に考慮すべき代表的なデメリットを3つ取り上げ、固定残業代制度の運用上の注意点を解説します。
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企業側が固定残業代を採用するデメリット①:人件費がかさむ可能性がある
固定残業代のメリットとして、給与計算の簡略化や人件費の見通しが立てやすい点が挙げられますが、その一方で、人件費が予想以上に膨らむリスクもある点には注意が必要です。固定残業代制度では、実際に残業が発生していなくても、あらかじめ定めた残業時間分の給与を支払う必要があります。
たとえば、固定残業代として毎月20時間分の手当を支払っている場合、従業員が月に10時間しか残業をしていなくても、20時間分の固定残業代を支給しなければなりません。反対に、固定時間を超えて残業が発生した場合は、追加で割増賃金を支払う義務もあります。
そのため、残業が少ない企業では、固定残業代によって本来不要な人件費が発生しやすくなるというデメリットがあるのです。企業は固定残業代のメリットとコスト面のバランスを慎重に見極める必要があります。
企業側が固定残業代を採用するデメリット②:長時間労働・サービス残業の温床になる恐れ
固定残業代のメリットとして「残業代を事前に給与に組み込める」という点がありますが、その制度運用を誤ると、逆に従業員の長時間労働やサービス残業を助長する可能性があります。
固定残業代を導入する際に気をつけておきたい注意点

たとえば、固定残業代制度を導入しているにもかかわらず、「固定残業代で全ての残業がカバーされる」「それ以上の残業代は支払われない」といった誤解が従業員や管理者の間に広がると、適正な残業代が支払われないケースが生じるおそれがあります。
本来、固定残業代制度では、定められた時間を超える残業については法定通りの割増賃金を支払う必要があります。また、固定残業代を導入しているからといって、「固定分までは働かせて当然」といった誤った認識が企業側にあると、過重労働を招きかねません。
固定残業代を適切に運用し、制度のメリットを活かすためにも、企業は勤怠管理の徹底と従業員への正しい制度理解の促進が不可欠です。
企業側が固定残業代を採用するデメリット③:求職者から敬遠される可能性がある
固定残業代制度は、導入企業にとって多くのメリットがある一方で、求人応募者からマイナスイメージを持たれやすいというデメリットもあります。特に、「固定残業代=ブラック企業」といった誤解を招くケースは少なくありません。
求職者は「実際の残業にかかわらず、一定の残業代しか支払われない」と捉えることがありますが、実際には固定残業代の上限を超えた場合には追加の残業代支給が法律で義務づけられています。企業がこの点を正しく説明しないまま求人を出すと、応募数の減少や企業イメージの低下につながる可能性があります。
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固定残業代の導入にはメリットも多く、労務管理やコスト計算の効率化に大きく貢献しますが、それと同時に、制度内容を正確に社内外へ周知することも重要な対応の一つです。
労働者側から見た固定残業代のメリット

労働者の立場から見ると、固定残業代制度は、労働基準法が適切に適用されている限り、多くのメリットがある制度といえます。とくに、収入の安定や時間の有効活用、そして長時間労働への対応など、固定残業代ならではのメリットが複数あります。
以下に、固定残業代を導入した場合に労働者が享受できる主なメリットを具体的に紹介します。
労働者側から見た固定残業代のメリット①:残業がなくても固定残業代が支給される
繁忙期と閑散期の差が大きい職種では、月ごとの残業時間に大きなばらつきが出やすく、結果として収入が不安定になるリスクがあります。
しかし、固定残業代制度では、実際に残業をしていない月でも、あらかじめ定められた金額の固定残業代が支払われるため、収入の変動が抑えられます。これは、収入の安定という点で労働者にとって非常に大きなメリットです。
労働者側から見た固定残業代のメリット②:業務効率化によって時間と収入の両方を確保できる
固定残業代が一定であることを活かし、業務を効率化すれば、残業時間を削減しながらも収入を維持できるというメリットがあります。
たとえば、固定残業時間内に収まるように業務を進めることができれば、実際の労働時間を短縮しつつ、固定された残業代を満額受け取れるのです。この仕組みは、労働者のスキルアップやワークライフバランスの向上にもつながるメリットのある制度運用といえるでしょう。
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労働者側から見た固定残業代のメリット③:固定残業時間を超えた分は追加で残業代が支給される

SoVa税理士ガイド編集部
「固定残業代=残業代が一定で打ち止め」という誤解が一部にありますが、実際にはそうではありません。固定残業代制度では、定められた時間を超過した場合、その超過分に対して正規の残業代が支払われる仕組みです。
つまり、労働者が多くの残業をした場合でも、固定残業代に加えて追加の残業代を受け取ることができるというメリットがあります。この点からも、固定残業代制度は不当に労働者に不利な制度ではなく、適切に運用されれば労働者の権利も守られる制度であるといえるでしょう。
労働者側から見た固定残業代のデメリット

前述のとおり、固定残業代制度は一見すると労働者にとってメリットばかりがあるように思えます。
実際、残業の有無にかかわらず一定額の残業代を受け取れることや、業務効率化による時間と収入の両立など、固定残業代のメリットは多く存在します。以下に、固定残業代制度の導入に際して注意すべきポイントを解説します。
労働者側から見た固定残業代のデメリット①:固定残業代を含む分、基本給が低く設定されることがある
企業が固定残業代制度を導入する背景には、求人広告における待遇面の見栄えを良く見せたいという目的があるケースが多々あります。
たとえば、「基本給20万円」と提示するよりも、「月給25万円(固定残業代5万円含む)」とした方が、高待遇であるかのように映ります。ですが、実際には基本給20万円に変わりはなく、見た目のメリットに惑わされないよう注意が必要です。
さらに、固定残業代制度を採用している企業では、実際の残業時間が少ない月でも固定残業代を満額支払う必要があるため、残業代のコストが高くなる傾向にあります。
これにより、企業側が支出バランスをとるために基本給を低く設定することが多く、結果として実質的な手取りが少ないというケースも見受けられます。
つまり、固定残業代があること自体はメリットであっても、それを理由に基本給が抑えられてしまうと、長期的にはデメリットとなる可能性もあるのです。

SoVa税理士ガイド編集部
固定残業代のメリットについてもっと詳しく知りたい人はこちらの記事もご参照ください。
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労働者側から見た固定残業代のデメリット②:固定残業代制度が悪用されるリスクも存在
本来、固定残業代制度には、固定時間を超えた分について追加で正規の残業代を支払うというルールが労働基準法により明確に定められています。
このルールが守られれば、固定残業代のメリットは最大限に活かされるべきものです。
しかし、現実には労働基準法を無視し、固定残業代制度を口実に追加残業代を支払わないブラック企業も存在します。
こうした企業では、長時間の労働を強いられても「固定残業代に含まれている」として一切の追加支給をしないことがあり、固定残業代の本来のメリットが失われてしまうのです。

SoVa税理士ガイド編集部
また、「固定残業代をもらっているのだから残業して当然」といった誤った認識を労働者に植え付ける企業もあり、労働者側が無自覚のうちに長時間労働を強いられているケースもあります。
こうした運用がされている場合、固定残業代制度はむしろデメリットになり得ることを十分認識しておく必要があるでしょう。
固定残業代を導入する際の注意点

固定残業代制度を導入するにあたっては、いくつかの重要な注意点があります。これらのポイントを正しく押さえておくことで、固定残業代のメリットを十分に活かし、企業運営の効率化や従業員との信頼関係構築にもつなげることが可能です。
固定残業代を導入する際の注意点①:残業時間の正確な把握が不可欠
固定残業代のメリットを最大限に活用するには、制度導入前に自社の平均的な残業時間を正確に把握することが必要不可欠です。実態に即さない形で固定残業時間を設定してしまうと、固定残業代を超える残業が常態化し、追加の割増賃金が発生するなど、企業にとって不利な状況を招きかねません。
逆に、残業がほとんど発生していないのに高めの固定残業代を設定してしまえば、人件費の無駄が発生し、固定残業代のメリットがかえって損なわれてしまいます。
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固定残業代を導入する際の注意点②:法令遵守を徹底する
固定残業代制度のメリットを正しく享受するには、労働基準法などの法的規制を十分に理解し、遵守することが前提です。固定残業時間には法的な上限があり、また支払う固定残業代が最低賃金を下回るような設定は認められていません。
適切な固定残業時間とそれに見合った固定残業代を設定しなければ、制度そのものが無効とされるリスクもあるため、制度設計には細心の注意が求められます。
固定残業代を導入する際の注意点③:従業員の同意が必要もあり
固定残業代制度を導入することで、基本給や他の手当の構成が変化する場合、従業員にとって不利益となる可能性もあります。
たとえば、固定残業代を導入する代わりに基本給を減額する場合などが該当します。こうした変更は、労働条件の変更にあたるため、固定残業代制度のメリットを企業側が得るだけでなく、従業員の納得と同意を得ることが重要です。
固定残業代に関するここがポイント!

固定残業代の仕組みやメリットについて、従業員が正しく理解できるよう丁寧に説明し、制度の透明性を高めることが重要です。
制度を周知徹底することで、固定残業代に対する不安や誤解を防ぎ、社内でのトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
まとめ

固定残業代は、企業・労働者双方にとってメリットの多い制度ですが、その一方で導入や運用には明確なルールと注意点が伴います。

SoVa税理士ガイド編集部
企業にとっては給与計算の簡素化や採用時の給与競争力アップといった利点がある一方で、制度設計を誤ると法的リスクを伴います。
また、労働者にとっても収入の安定や評価の見える化といったメリットがある一方で、実際の労働時間と賃金が見合わない可能性も否定できません。
固定残業代を正しく活用するには、「透明性」と「適切な運用」がカギ。導入前には制度の趣旨と運用方法をしっかり確認し、労使双方が納得できる形で進めることが大切です。
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